夏は「木が動く」、冬は「木が動かない」〜現場の経験則が研究データでも示唆された

2023.03.16
夏は「木が動く」、冬は「木が動かない」〜現場の経験則が研究データでも示唆された

林業従事者の間では昔から、山の木は冬に伐採するのがいいと言われてきました。

というのは、夏は木の水分量が増えて重くなり、運搬コストがかかる、虫に食べられやすくなる、皮がむけやすくなる、製材したあとに割れやよじれが起きやすくなる、と言われてきたためです。夏は「水をあげる」「木が動く」という言葉もあります。そのため、今のような製材技術、乾燥技術がない時代はとくに夏の伐採は避けられてきました。

冬はその逆で、「木がとまる」「木が動かない」と言われてきました。水分量が減って、運搬しやすくなり、製材後の割れやよれも起きにくくなるためです。高品質な木材を得るには、冬に木を伐採するとよいとされてきました。切り旬という言葉がありますが、それが冬でした。

これらの知恵は、現場の林業従事者だから知り得た経験上の感覚でしたが、2021年に森林バイオマス利用学会誌に掲載された鳥取県林業試験場の研究報告によると、その経験則がどうやら正しそうだ、ということが分かりました。

https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1269039/ronnbunn.pdf

応力波法によるスギ生立木の長期モニタリング(鳥取県林業試験場)

下の図は、実際の杉の立木で、6年にわたってSRT値(応力波伝播時間)という木材内部の水分量と高い相関のある指標を計測した結果です。SRT値なら伐採せずに計測できるので、同じ木を長期にわたって調査できるそうです。

出典:https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1269039/ronnbunn.pdf(森林バイオマス利用学会誌 Vol. 16, No. l, pp. 1-9 2021、桐林真人)

図の中の黒い太線が「相対SPT値」という「木の水分量と相関を示す値」です。このグラフから、杉の樹幹の水分量の季節的な変化が強く示唆され、9月下旬から3月下旬まで水分量が低くなっている可能性が認められました。

また一方で、1年目(2015年)と5年後(2020年)を比べると、相対SPT値の変化の振幅が減少していったので、樹幹内の含水変化の躍動が成長とともに低下している、もしくはなんらかの材質の変化が起こっている可能性も認められました。

昔から、山の木の伐採は秋口(9月、10月ごろ)から春先(3月ころ)が適した時期と言われてきましたが、その現場の経験則が客観的なデータで示されたのは興味深いことですね。